縄文への道 縄文人から現代人へのメッセージ
 縄文への道 > 感銘の一冊 > 文明の環境史観 

文明の環境史観


文明の環境史観
文明の環境史観
安田 喜憲 著  中公叢書  定価2100円(税込)

 安田史観の総集篇ともいうべき一冊である。『文明の○○史観』というのは、 梅棹忠夫の『文明の生態史観』を叩き台として、今までに数人の碩学が上梓しているのだが、かつて塾長も『文明の森林史観』と題して、執筆に悪戦苦闘をした経緯がある。結局あまりにおこがましいと思い直して、目下『人と森の地球史』に題名を変更して相変わらずエンドレスの執筆を行っているのだが、なにを隠そう安田先生は塾長が(勝手にだが)最良の師と私淑している方である。  

 風土と気象が文明や思想・国民性を形成するという事実を指摘したのは、和辻哲郎『風土』だが、氏はこれに動態性を付加し、平板な史観から脱却した新しい視点を提示した。すなわち専門の花粉の化石分析と年縞という土質年代の構成などから当時の気候を類推していく手法で、歴史を環境という面で考えることでまったく新しい歴史観提示していった。  

 また本書は、西洋史観の盲点を鋭く突いて、今後地球文明の鍵はモンスーンアジアが握っているという、大胆な自説を展開する。もちろんその中核をなすのは、縄文に発した日本文化であることはいうまでもない。  

 氏は、西洋文明を「牧畜・畑作文明」と定義し、日本文明を「漁撈・水田稲作文明」だとする。すなわち畑作文明と水田稲作文明の間には大きな乖離があるのだという。絶対水平を必要とし、しかも土地に縛られて動くことの出来ない水田稲作と違って、畑作の場合は必ずしも水平を必要しない代わりに、乾燥期には表土の飛散があり、寒冷期や敵襲に応じて容易に土地を捨てて流民になれた。ここに西欧と日本の決定的差違があるのだ。  

 氏は1980年に「日本の文化は森の文化であることを発見した」と書いている。「以来日本文化の基層には、縄文時代以来の森の文化の伝統が、巨大なうねりとなってとうとうと流れているというのが私の長年の持論」だといい、それを氏は、足るを知る「美と慈悲の文明」と呼ぶ。いままでの塾長の仕事は、 氏の持論を自分なりの方法で検証しているかのようだ。  

 本書は、英雄中心史観とか、事象の羅列という平板史観からでは容易に見い出せない赤裸々な西洋国家像や行動原理、それに血塗られた歴史の背景とか、厳しい自然環境のしっぺ返しなどを明らかにするのだが、一神教の限界を感じる昨今、われわれ日本人に希望と勇気を与えてくれる一冊でもある。

ひとつ前へ 縄文への道 感銘の一冊 次へ

< 縄文塾通信 > < 縄文塾掲示板 >..
当サイトはリンクフリーです。 引用も引用元を明記してくだされば、原則自由です。
Copy right (c)2006 中村忠之 All Right Reserved
.